近年は生活保護受給者の高齢化が進んでおり、近所に頼れる人がいなければ孤独死してしまうケースも少なくありません。そこで問題になるのが、死亡後に発生する手続きや諸費用の負担者です。
今回は、生活保護受給者が死亡した場合のアパート退去費用や遺品整理において、負担者や相場などを紹介していきます。費用を抑えるコツも解説するので、受給者死亡後の手続き・費用負担に悩んでいる方はチェックしてみてください。

生活保護受給者が死亡した場合の費用負担者は誰?
生活保護受給者が死亡した場合、アパートの退去に掛かる費用負担の所在は下記のように移っていきます。
【生活保護受給者死亡後に費用を負担する人】 ①連帯保証人→②相続人→③物件の所有者 |
まず支払い義務を負うのは「連帯保証人」です。そして連帯保証人が支払えなかった場合は「相続人」に請求がいきますが、相続人も支払えないとなると、最終的には「物件の所有者」が支払うことになります。
ただ、アパートの退去手続きのうち“遺産相続に関わる作業(遺品整理・整理後の明け渡しなど)”に関しては、原則として相続人が行うように法律で定められている点には要注意です。
また、相続人=親族のイメージがあるものの、遺言書さえ残せば赤の他人に財産を譲ることもできます。そのため、必ずしも親族のみが相続しているとは限らない点にも留意しておきましょう。
連帯保証人
アパートの賃貸契約における連帯保証人とは、借り主が家賃や設備弁償費などを支払わない・支払えなくなった際に、借り主に代わって支払う人のことです。
連帯保証人は法律上、借り主と同等の扱いになります。たとえ借り主本人が死亡したとしても債務はそのまま連帯保証人に引き継がれるため、真っ先に退去費用の支払い義務を負うのです。
なお、連帯保証人になるための重要な条件は“支払い能力の有無”なので、親族のみならず友人・知人が連帯保証人になっているケースもあります。
法定相続人
法定相続人(相続人)とは、故人の遺産を受け継ぐ権利がある人のことです。預貯金や不動産などの“プラスの遺産”と同時に、借金・債務などの“マイナスの遺産”も引き継ぎます。
そのため、連帯保証人が支払えなかったり、そもそも連帯保証人がいなかったりする場合には、相続人に退去費用の支払い義務が生じます。
また、相続人の範囲は民法で定められている点も要チェックです。故人の配偶者は必ず相続人になり、その他の親族は以下の順序で配偶者と一緒に相続人になります。
・直系卑属…子供や孫
・直系尊属…父母や祖父母
・兄弟姉妹(兄弟姉妹が死亡していたら、その子供)
原則として、上記の相続人以外に相続権は与えられません。しかし上述した通り、故人が遺言状を残せば赤の他人に遺産を譲ることも可能です。
物件の所有者
もしも相続人がいない、あるいは相続人全員が相続を放棄した場合には、物件の所有者が退去費用を工面しなければなりません。
物件の所有者には支払い義務はないものの、自腹でも退去作業を行わなければ次の入居者を入れることができず、賃貸経営が立ち行かなくなってしまいます。
詳しくは後述しますが、退去に掛かる諸費用は決して安くはありません。物件の所有者はこのようなリスクへの備えとして、あらかじめ「孤独死保険」への加入など何かしらの対策を講じておく必要があるといえます。
相続人がしなければいけないこと
ここからは、「相続人」の立場にフォーカスして解説していきます。生活保護受給者が死亡した場合、相続人が行うべきことは葬儀の手配や遺品整理、アパートの明け渡しだけではありません。例えば、下記のような手続きも求められます。
・携帯電話の解約
・預金口座の解約
・年金の停止手続き
・公共料金の利用停止手続き
・相続税申告
など
また、特に葬儀手配~アパートの明け渡しまでは、生活保護のケースワーカー・病院・葬儀会社・アパートの管理会社・家主などとこまめに連絡を取り合う必要もあります。多大な労力と時間を割かなければならない点は、あらかじめ覚悟しておきましょう。
相続放棄をする場合はどうなる?
生活保護費は借金の返済には充てられないため、亡くなった生活保護受給者が多額の負債を抱えているケースもおおいに考えられます。その場合、「相続放棄」という選択肢もないわけではありません。
相続放棄とは、その名の通り一切の相続権を手放すこと。プラスの遺産を相続できなくなるものの、負債からも逃れられます。相続放棄を検討する際は、以下の点に注意しましょう。
・相続放棄の手続きには期限がある
・遺品整理をすると、相続放棄できなくなる場合がある
放棄が認められるのは、相続を知った日から3カ月以内に申請した場合のみです。
また、遺品整理=故人の持ち物を捨てたり売ったりすると、「相続の意思がある」と見なされる可能性があります。この場合、放棄手続きの期限内であっても遺産放棄ができなくなるので、放棄検討中は遺品に手を付けないほうが無難です。
生活保護受給者が死亡した場合の諸費用
生活保護受給者が死亡した場合、どのような費用が必要になるのかを具体的に見ていきましょう。
【生活保護受給者が死亡した場合に発生する費用】 ・アパート退去費用 ・葬儀費用 ・納骨時のお布施など諸費用 ・その他費用 |
これら諸々の費用相場を合計すると、少なくとも約37~244万円は掛かります。
アパートの広さや葬儀形式などに大きく左右されるものの、決して少なくはない金額が必要になるので注意が必要です。
アパート退去費用
アパート退去費用として、以下があります。
・遺品整理費…家財やゴミの処分・遺品供養など
・原状回復費…壁紙の張り替え・床の修復など
・1カ月分の家賃
「遺品整理」は自ら行う人も多いものの、部屋がきれいであるとは限りません。ゴミ屋敷のように散らかっていた場合は、片付け・遺品整理業者に依頼したほうがよいでしょう。早く終わるのはもちろん、処分費・清掃費などを諸々含めると自ら行うより安く済むことも多々あります。
家賃を除くそれぞれの費用相場は、以下の通りです。
・遺品整理費(業者に依頼した場合)…1LDK:約8万円~、2LDK:約13万円~、3LDK:約18万円~、4LDK:約22万円~
・原状回復費…1LDK:約5万円、2LDK:約8万円、3~4LDK:約9万円
なお、生活保護受給者は孤独死が多く、遺体発見時には腐敗が進んでいることもあります。その場合、原状回復費が高くなったり、家賃を余分に支払う必要があったりする点は頭に入れておきましょう。
葬儀費用
葬儀に関しては、生活保護受給者との関係性に応じてさまざまな判断ができます。関係性が薄いのであれば、葬儀費用を最大限に抑えられる「火葬(通夜・告別式を行わない葬儀)」のみで済ますのも一つの手です。
葬儀費用の相場は、下記の通りです。
・火葬のみ…約15~30万円
・通夜・告別式などを行う一般的な葬儀…約196万円
なお、葬儀に関する事柄はできる限り急いで決定しなければなりません。亡くなってから日数が経つと、その分ドライアイス費用・安置室の利用など、“遺体の保管に掛かる費用”がかさんでしまいます。
納骨時のお布施など諸費用
葬儀が終わったら、一旦お骨・遺影などを自宅に持ち帰り、四十九日=忌明けまで祭壇に安置します。そして四十九日の法要が終わったら近くのお寺に相談し、お骨をお墓や納骨堂に納めるのが一般的です。
この納骨の際にも故人を供養する儀式「納骨式」が行われるため、下記のような費用が掛かります。
・墓石の開閉・祭壇準備などの作業費…約1万5000~3万円
・墓石への彫刻料…約3~5万円
・法要部屋の使用料…約1~3万円
・卒塔婆…約2000~5000円
・お坊さんへのお布施…約3~5万円
など
また、納骨式と合わせて四十九日の法要も行う場合はより多くのお布施が必要になる他、参列者の会食費・引き出物代なども発生します。
その他費用
上記の他にも、さまざまな細かい費用が発生します。例えば、生活保護受給者の自宅までの交通費です。
遺品整理を自ら行う場合はもちろんのこと、遺品整理業者に依頼したとしても場合によっては現地に赴かなければなりません。業者によって、作業時の立ち会い、もしくは立ち会い不要でもあらかじめ通帳・印鑑・携帯電話など貴重品の回収が求められるためです。
特に遠方に住んでいる場合は、交通費だけでも決してバカにならない金額が飛んでいってしまうので留意しておきましょう。
生活保護受給者が死亡した際の必要費用を抑えるポイント
生活保護受給者は、近くに頼れる親族がいないケースが大半です。そのため、自分が会ったこともない親族(生活保護受給者)の相続人であると突然知らされ、諸手続き・費用の負担が大きくのし掛ってくる可能性もゼロとはいえません。
もしもそうなってしまった場合、相続放棄をしないのであれば最大限に費用負担を減らしたいもの。
そこでここからは、費用負担をなるべく抑えるためのポイントを紹介します。主なポイントは、下記の3点です。
・葬祭扶助制度を利用する
・できるだけ早く行動する
・優良業者を選ぶ
葬祭扶助制度を利用する
遺品整理・アパートの退去に関しては公的支援がないものの、葬儀においては「葬祭扶助制度」を利用できる可能性があります。
葬祭扶助とは、経済的に困窮している人に対して、自治体が葬儀費用を支給する制度のことです。以下のいずれかの条件を満たしている場合、葬儀前に利用申請をすれば支給されます。
【扶助制度の適用条件】
・遺族が経済的に困窮しており、葬儀費用を負担できない
・扶養義務者がおらず、遺族以外が葬儀を執り行う
支給額は自治体によって多少差があるものの、大人206,000円以内、子供164,800円以内が目安です。なお、支給金で行える葬儀形態は、必要最低限の内容で火葬のみを行う「直葬」と定められています。
できるだけ早く行動する
また、できるだけ早く行動することも大切です。死亡後の手続きには、時間が経つほど費用がかさんでしまうものも少なくありません。
例えば、下記の手続きは特に迅速さが求められます。
・葬儀の手配(遺体保管料がかさむ)
・遺品整理・アパートの引き渡し(家賃がかさむ)
・携帯電話や公共料金の解約(基本料金がかさむ)
・介護サービスの解約(利用料がかさむ)
など
手続きの遅れや漏れによって費用負担が増えることのないよう、必要な手続きはなるべくリスト化し、優先順位を付けながら進めていくと安心です。
業者選びが大切
葬儀会社、片付け・遺品整理業者ともに、優良業者を選ぶことが欠かせません。各業者サービス・価格設定が異なるため、どの業者を選ぶかによって費用負担が大きく左右されます。
優良業者選びにおすすめの方法が、合い見積もり(複数の業者から見積もりを取って比較すること)です。特に故人が生活保護受給者である場合は、合い見積もりは必須です。
生活保護受給者の遺品整理にあまりに高額な費用を払うと、遺族にお金がある=生活保護は不要だったと見なされ、生活保護費の返還が要求される可能性もあります。そのため、合い見積もりは「なるべく安い業者を探した証拠」としても役立つのです。
なお、業者選びが不安な人は、片付け・遺品整理業者を比較できるサイト「みんなの遺品整理」を利用してみてください。全国778社もの業者が掲載されており、サイト運営側に合い見積もりの手配をしてもらえるため楽々比較できます。
まとめ
ただでさえ手間もお金も掛かる、死亡後の手続き。故人が生活保護受給者であった場合、孤独死が多いことから通常より費用がかさんでしまうケースも決して少なくありません。できる限り費用負担を軽減できるよう、しっかりと正しい知識を持つようにしましょう。
また、生活保護受給者は死後も多少の制限が掛けられています。特に遺品整理においては、上述したようなトラブルに巻き込まれないためにも、なるべく遺品整理業者のみならず役所にも相談をしながら進めてみてください。
【監修者:一般財団法人遺品整理士認定協会】
遺品整理業界の健全化を目的に2011年設立。
遺品整理士養成講座を運営し、認定試験・セミナー・現場研修などを実施している。
法令順守をしている30,000名を超える会員、1,000社を超える法人会員が加盟。法規制を守り、遺品整理業務を真摯に行っている企業の優良認定、消費者保護のための遺品整理サービスガイドラインの制定もおこなっている。
【執筆者:みんなの遺品整理事務局】
東証プライム市場上場企業の株式会社LIFULLのグループ会社である株式会社LIFULL senior(ライフルシニア)が運営しています。2017年より業界最大級の遺品整理・実家の片付け業者の比較サイト「みんなの遺品整理」を運営し、全国で累計件数30,000人以上の皆様からご相談・ご依頼をいただいております。
はじめての遺品整理でも、専門知識が豊富な相談員が中立な立場で、無料アドバイスをさせていただきます。大切な人の生きた証を残しつつ、気持ちよく次の世代へ資産や遺品を引き継ぐために、私たちは、お客様一人一人に最適なお手伝いができる情報提供・業者のご提案をいたします。