「部屋を貸している相手が、いつまでも家賃を払ってくれない…」

このような状況が続くと、大家さんの側としては強制退去という四文字が頭をよぎるのではないでしょうか。

実は強制退去には正しい流れというものがあります。

感情的になって強制退去を実力行使する方もいるのですが、強制退去の流れを間違って実行してしまうと、大家の側が不利になるので注意が必要です。

実際、強制退去を無理に進めてしまうと「借地借家法」と呼ばれる法律によって、大家の側が借主(以降、賃借人と表記)より訴えられるケースが少なくありません。

また国土交通省によると、大家と貸借人の家賃滞納や明け渡し請求に関する提訴が多いことを例に挙げ注意喚起をしています。

強制退去というのは、考えるだけでも気の重い手続ではありますが、強制退去で不利な状況にならないよう、先に「正しい流れ」を把握しておくことでトラブルは未然に防げます。

そこでこの記事では、

◉ 強制退去の正しい流れ

◉ 強制退去にかかる費用

◉ 確実に強制退去を実現する方法

◉ 強制退去の費用を抑える方法

◉ 強制退去の対応で頼れる相談先

について解説します。

この記事を読むことで、強制退去を進める上で「正しい流れ」や注意すべきポイントが分かります。安全・合法な手続きを踏んで、強制退去をスムーズに進めていきましょう。

強制退去の流れを徹底解説!大家が不利にならない強制退去の進め方

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1.強制退去の流れ

 

強制退去の流れは、賃借人との話し合い(任意交渉)から始まり、相手の対応に合わせて段階的に手続きを踏んでいく流れとなります。

 

強制退去の流れは、下記の通り6つのステップがあります。

 

 

任意交渉というのは、上の画像にあるSTEP1〜3の部分です。

そして、実際の裁判から部屋の明け渡しまでの手続きが、STEP4〜6の部分になります。

 

交渉が難航し、賃借人が部屋を明け渡さないという場合には、最終的に強制退去(強制執行)を進めることになるのですが、上記すべてのステップを踏む必要はありません。

 

なぜなら、相手が早く家賃を支払うなど「交渉」に応じてくれれば話は早く解決しますし、強制退去にまで至らず問題が解決するケースもあるからです。

 

交渉の期間や裁判がどれだけ長引くかにもよりますが、家賃滞納が起こってから強制執行までの期間は、トータルで平均10カ月〜12カ月程度かかります。

 

このため、強制退去は長期戦になることの覚悟も必要ですし、次の第2章で具体的に説明をしますが「お金がかかる」という部分も考慮しなければいけません。

 

本章では家賃滞納から実際の強制執行まで、どのような手続きを踏むのか「全体の流れ」を詳しく解説します。

 

1-1.書面や電話で通知を行う

家賃の支払いが行われていない場合、書面または電話で「家賃が払われていない」旨を賃借人に伝えます。

 

とはいえ、支払い日から数日であれば様子を見ておくのが無難です。なぜなら、引き落とし口座にウッカリ入金し忘れていたということも考えられるからです。

 

目安としては、家賃延滞から1週間を過ぎたら連絡をするのが無難です。

 

電話または書面で通知するのが一般的ですが、ここでは支払期日のほか、期日までに支払いがなければ「連帯保証人に連絡を取る」ということも相手に伝えておきましょう。

 

期日までに支払いがあれば、ここで問題は解決です。

多くの賃借人は、連帯保証人に迷惑はかけられないと考え、この時点で支払いを行います。

 

しかし、通知を行った後も引き続き連絡がない、支払いが一向に行われないという場合には、次のステップに進んでください。

 

1-2.連帯保証人への連絡

期日までに支払いが無かったり、賃借人から何の連絡も無いという場合は、連帯保証人に支払いの請求を行います。

 

連帯保証人に連絡するタイミングは、滞納から2カ月というのが一般的です。ここで連絡する「連帯保証人」とは、賃借人の債務を連帯で保証する立場の人を指します。

 

賃貸物件では契約時に「連帯保証人」を立てるのが一般的です。

実際に国土交通省の調査によると賃貸物件の約60%が、保証人を立てて物件を貸し出していることが分かっています。

 

このため、家賃滞納についても本人に連絡が取れない場合、連帯保証人に連絡を取るのは一般的なことです。

賃貸契約時に交わした書類を探し、連帯保証人に連絡を取りましょう。

 

1-3.督促状を内容証明郵便で出す

賃借人または連帯保証人から支払いが無いという場合には、督促状を送付します。

 

詳細は「3-1.3カ月以上の滞納」で後述しますが、家賃滞納から3カ月目で、債務不履行(契約によって契約者が果たすべき義務を怠っている状態)が起こっていると、裁判所から認めてもらいやすくなります。

このタイミングで督促状を出すのです。

 

督促状は普通郵便ではなく、内容証明郵便で差し出してください。

 

作成した督促状を内容証明郵便で送るのは、日本郵便が「誰がいつ、どのような内容で手紙を差し出したか」記録をしてくれるからです。

 

内容証明郵便とは?

 

一般書留郵便物の内容文書について証明するサービスです。

いつ、いかなる内容の文書を誰から誰あてに差し出されたかということを、差出人が作成した謄本によって当社が証明する制度です。

 

引用元:内容証明(日本郵便)

 

内容証明郵便で送ると、いつどのようなやり取りが行われたのか分かるため、裁判において重要な証拠となります。

郵便局に出す督促状の書類ですが、裁判のためにも以下の三通が必要です。

 

◉ 相手用

◉ 自分用

◉ 郵便局の保管用

 

督促状の内容ですが未払い、今後の支払いが無い場合には「賃貸借契約を解除する」旨を通知します。

ここで督促状のテンプレート例を紹介します。

 

 

書類はこちらのテンプレートに沿って手続きを行えば、裁判で不利になることはありません。

また『督促状テンプレート』等で検索をしても、法律上問題のない雛形がダウンロードできるので便利です。

 

このほか、自分で作成するのが不安な場合には、弁護士など法律の専門家に督促状の作成依頼すると良いでしょう。

 

1-4.賃貸契約解除

督促状の期日までに支払いが行われなかった場合には、賃貸契約の解除ができるようになります。

 

ただし、賃貸契約は簡単に解除できるものではありません。

解除できるケースとしては「合意解除」または「法定解除」のいずれかの要件に沿って手続きをしなければいけません。

 

合意解除と法定解除の違い

合意解除

当事者間の話し合いや交渉等で、契約解除に合意すること。別名を合意解約とも言う。

法定解除

法律で定められている契約解除の原因が認められた場合、その原因を理由として賃貸契約が解除できることで、明け渡し請求訴訟が該当します。

 

円満に合意解除ができ、滞納している家賃が回収できればここで交渉は終了します。

 

しかし、家賃の催促をしても相手から支払われない場合には、法定解除(この場合は明け渡し請求訴訟)という次のステップに進むことになります。

 

1-5.明け渡し請求訴訟

ここから、明け渡し請求訴訟(裁判)の手続きに移ります。裁判の訴状では、賃借人に対して以下の請求を行います。

 

◉ 明け渡し請求

◉ 滞納分の家賃の請求

 

明け渡し訴訟を提起したものの賃借人が裁判を欠席し、反論を書いた答弁書が提出されていない場合には、訴えた側の主張がそのまま認められ、賃借人に物件を明け渡すよう判決が下ります。

 

判決が出るまでの期間ですが、裁判の申請をしてから、訴訟の第1回期日が開かれるまでには、1か月半〜2カ月程度の時間がかかります。

 

また裁判が始まってから、判決が下されるまでに1〜2か月の時間がかかります。

 

裁判は自分で起こすこともできますが、法律に詳しくなければ自力で解決するのは難しいです。

 

このため、明け渡し請求訴訟の段階から、多くの方が弁護士に依頼をして、手続きを進めることになります。

 

1-6.強制執行

判決が出た後、通常であれば貸借人は大家に部屋を明け渡す必要があります。

しかし、この判決を不服として退去しなかった場合には「強制執行」という更なる手続きが必要になります。

 

強制執行手続

強制執行手続は,勝訴判決を得たり,相手方との間で裁判上の和解が成立したにもかかわらず,相手方がお金を支払ってくれなかったり,建物等の明渡しをしてくれなかったりする場合に,判決などの債務名義を得た人(債権者)の申立てに基づいて,相手方(債務者)に対する請求権を,裁判所が強制的に実現する手続です。

 

引用元:民事執行手続(裁判所)

 

強制執行の手続を行った後、断行日(強制執行の日)に部屋の明け渡しを行うよう裁判所が介入し、強制的に賃借人から賃貸人(大家や不動産オーナー)に部屋の明け渡しが行われます。

 

判決後から強制執行までの具体的な手順を、さらに詳しく説明したのが下の図です。

 

 

ここからは強制退去の申し立てから、強制執行の施行までの流れをさらに詳しく解説します。

 

1-6-1.申し立て

 

物件を明け渡す判決が出たにもかかわらず、賃借人が住まいを明け渡さない場合には、強制執行によって建物から退去させることができます。

 

また裁判で和解に至った場合でも、賃借人が和解内容に従わない場合には、強制執行に踏み切ることができます。

 

申し立てを行うには、以下の書類と費用を準備し、物件の所在地を管轄する地方裁判所に提出をしてください。

 

申し立てに必要な書類と費用

申立書

強制執行を行うのに必要な書類。裁判所のホームページでPDFのほか、Excel形式の書類がダウンロードできる。

民事執行申立書(PDF版)

民事執行申立立書(Excel版)

送達証明書

強制手続にあたり確定判決等、強制執行前に債務者に通知ことを証明する書類で、不動産の所在する管轄の執行裁判所に対して提出を行う。

申請書は裁判所のホームページでダウンロードできる。

⇒ 送達証明申請書ダウンロード(裁判所)

判決の正本

裁判の判決内容が書かれた謄本の一種で、裁判所書記官名が作成した原本の写しのこと。

資格証明書

大家・賃借人のどちらかが法人の場合に必要。

登記所が証明する書面であり、正式名称を「登記事項に変更及びある事項の登記がないことの証明書」という。

物件の所在地が分かる書類

物件の場所が書かれた地図など

予納金

65,000円

1物件あたりの費用。物件が増える場合には1物件あたり+25,000円の費用がかかる

手数料

4,000円(収入印紙)

 

ここで注意したいのは、申し立てに一律65,000円の予納金がかかってくるという点です。

予納金は、執行官が、強制執行手続きをするための費用(執行官手数料、交通費等)です。

 

予納金は全額使われないことも多く、残金があった場合は、強制退去後に申立人に返還されます。

 

なお予納金以外にも、必要な書類の送付などに手数料4,000円(収入印紙)がかかり、裁判所に納める必要があります。

 

これら書類の作成から提出、予納金を納めるまでの手続きは、1週間程度の期間を見積もっておくと良いでしょう。

 

1-6-2.打ち合わせ

 

今後の強制執行に向けて、執行人(=執行の担当者)と打ち合わせを行います。執行人とは、各地方裁判所に所属する裁判所職員のことで、執行人が強制退去の執行を行います。

 

強制執行の打ち合わせは早くて1日、手続きが長引いた場合、5日前後の時間がかかります。

 

なお、執行官との打ち合わせは裁判所または電話で行われ、ここでは明け渡しの催行日と断行日のスケジュールを決定します。

 

また打ち合わせまでに、執行補助人という強制執行時の荷物の運び出しを行う業者を決めておく必要があります。

 

執行補助人は、裁判所が紹介してくれるものではありません。

 

申し立てを行う側(=不動産オーナーや大家)が手配しなければいけないのです。

そして、打ち合わせの段階でどの業者が行うのか、執行人に事前に知らせておく必要があります。

 

業者の探し方ですが、ただ単に引っ越し業者や赤帽などの協同組合に依頼するのでは無く、業務内容に「強制執行補助業務」を挙げている業者の中から選定しなければいけません。

 

検索エンジン等で【物件の所在する市区町村の名前+強制執行補助業務】で検索しても調べられますが、信用できる業者を選べるか不安な場合は、「8.強制退去時の業者選びはみんなの遺品整理へご相談ください」を参考にして探してみてください。

 

1-6-3.催告期日(催行日)

 

ここまでの交渉にもかかわらず、賃借人が部屋に居座った場合には、催行日に執行人が出向き催告を行います。

 

催告とは、以下の内容を賃借人に対して告知をする手続きのことです。

 

◉ 物件の引き渡し期限

◉ 実際に強制執行を行う日(断行日)

 

催告の流れは、まず玄関チャイムでの呼びかけに応じた場合は任意での入室を行います。

また呼びかけに応じなかった場合は、その場に同行した解錠技術者が強制的に施錠を行います。

 

なお、荷物の運び出しは催行日ではありません。解錠を行った日に明渡しの催告が行われ、明渡しの期限後の断行日(次項で解説)に運び出しを行います。

 

催行日に貼り付けられる公示書には以下の通り、差押財産の内容と強制執行(断行日)の期日が記されています。

 

公示書とは?

 

法第60条第2項の「公示書」とは、差押財産であることを一般に周知させるために公示し、公衆がこれを知りうる状態におくための令第26条《差押動産等の表示》に定める事項を記載した書面をいう。

この書面の様式は、別に定めるところによる。

 

参考:第60条関係 差し押さえた動産等の保管(国税庁)

 

公示書の期日までに任意の立ち退きが行われなかった場合、次のステップである断行日(強制退去の実施日)に荷物を運び出す流れとなります。

 

1-6-4.強制執行(断行日)

 

執行人と執行補助人が再度賃借人の物件に出向き、公示書の内容に沿って荷物を運び出します。

 

運び出した荷物は、執行官と打ち合わせで決めた業者の管理する保管場所に一定期間(1か月程度)保管し、賃借人が引き取りに来ない場合には競売にかけるか廃棄を行います。

 

これで強制執行に伴う、一連の手続きは終了です。

 

2.強制退去にかかる費用

 

強制退去を進めるには『明け渡し請求訴訟』という裁判を起こすことになりますが、強制退去にかかる費用は、この裁判の費用も含めた費用を準備する必要があります。

 

具体的に言うと強制退去の費用は、下記3つの費用の合計額になります。

 

 

上記3つ目の退去費用とは、賃借人が物件の立ち退きを拒否していた場合にかかる費用のことで、具体的には、鍵の開錠費用や荷物の運び出し等にかかる費用のことを指しています。

 

強制退去にかかる費用はケース毎に異なり、平均値を出すのが難しいです。なぜなら、裁判の費用は案件毎に手数料が変わるからです。

 

また、弁護士費用も弁護士事務所や弁護毎に設定している金額が異なります。

こちらも案件毎に費用は変動しますが、目安として強制退去全体でどのくらいの費用がかかるのか、それぞれの内訳を紹介します。

 

2-1.裁判費用

 

明け渡し請求訴訟にかかる費用は、部屋ごとに条件は異なります。なぜなら、裁判所に払う印紙代が、固定資産評価額に応じて変わるからです。

 

また、後述しますが裁判の前に法務局に担保金を納付する必要があり、この金額が高額になります。

一例ですが、家賃5万円のワンルームマンションで裁判を起こした場合には、平均「15〜30万円」前後の費用がかかります。

 

裁判にかかる費用の内訳は次の通りです。

 

裁判費用の内訳

区分

内容

費用

通信費

督促と契約解除についての内容証明郵便の費用

1通あたり1,275円

 

・郵便料金:80円

・書留の加算料金:450円

・配達証明320円

・内容証明:440円(2枚目以降260円増)

裁判所への手数料

印紙代(申立てに必要な費用)

固定資産評価額に応じて変わる

例)部屋の評価額が500万円の場合の手数料は12,000円

裁判所から必要な書類の送付にかかる切手代

相手方1名の場合切手4,500円

相手方が1名増えるごとに500円×2枚(1,000円)を追加

占有移転禁止の仮処分

占有者を裁判の前に固定し、勝訴判決後の強制執行に備えるための手続きにかかる費用

申立費用2,000円、担保金30万円

※ 担保金は、家賃の3カ月〜6カ月程度が相場

 

上記は弁護士費用を含まない金額です。弁護士費用については後述しますが、裁判を起こすだけでもこれだけの金額がかかります。

 

裁判費用で特に高いのが「占有移転禁止の仮処分」の項目にある担保金の部分です。

 

担保金は裁判所によって異なりますが、家賃の3カ月〜6カ月分を担保金として用意しなければいけません。

 

そもそも「占有移転禁止の仮処分」とは、明渡し訴訟に必要なプロセスなのですが、この手続きを行うことで裁判所の命令によって、

 

◉ 賃借人が他人に物件を使用させることを禁じる

◉ 賃借人やそれ以外の人間を立ち退きさせる

 

ができるようになります。

 

かみ砕いて説明すると、強制退去の際には賃借人だけでなく「同居人がいたら一緒に立ち退いてくださいね」という執行を行うため、占有移転禁止の仮処分という手続きが必要なのです。

 

占有移転禁止の仮処分の手続きは、地方裁判所に申立書と証拠書類を提出した後、通常であれば数日で仮処分命令が下されます。

 

そして、この命令が出る前の段階で、先程解説した担保金を法務局に預けなければいけないのです。

 

なぜ担保金が必要なのかという理由ですが、裁判では訴えられた側だけでなく、裁判所が訴えた側に「仮差押えが間違っている」と判決を下す可能性もゼロではありません。

 

このため、相手方への損害賠償の備えとして先に担保金を預かっておくのです。

万が一賠償責任の生じる出来事があった場合には、先に預けた担保金から支払いが行われます。

 

担保金の額は裁判所によって異なりますが、相場は先に説明したとおり【家賃の3カ月〜6カ月分】です。

 

例えば、家賃が5万円であれば15万円〜30万円程度の担保金が必要という計算ですね。

 

この担保金は裁判で勝訴が確定したあと返還されるのですが、家賃が高額になればその分、法務局に預けるべき担保金も高額になります。

 

このため、訴える側は金銭的に余裕を持って準備を進める必要があります。

 

2-2.弁護士費用

 

弁護士費用は【着手金・報酬金・相談料】の総額となり、弁護士ごとに費用はそれぞれ異なります。

 

このため、いくつかの弁護士事務所に相談内容を簡単に説明し、どのくらいの費用がかかるのか事前に問い合わせてから依頼を検討するようにしてください。

 

本項では、家賃5万円のワンルームマンションで裁判を起こした場合を例に、どのくらいの弁護士費用がかかるのか紹介します。

 

弁護士費用の目安

区分

内容

費用の目安

着手金

事件を依頼した段階で発生する費用。

事件の結果に関係無く必要な費用で、敗訴をしても返還はされない。

30万円程度

報酬金

事件が成功に終わった場合、事件終了の時点で支払う費用のこと。

成功の度合いに応じて支払われる。

30万円程度

相談料

弁護士に相談をする際にかかる費用。

1時間単位で料金が表示されている。

1時間あたり5,000円〜 10,000円程度

 

どの弁護士事務所も「初回の相談は無料」としているところが多いです。

 

このため無料相談の機会を利用して費用感だけでなく、どのような弁護士が担当してくれるのか確認できます。

 

また、弁護士から提示される費用が適正かどうかは、上の「弁護士費用の目安」を参考に判断してください。

 

大半の弁護士事務所が、日本弁護士連合会の提示する「費用基準」を参考にしており、本章で紹介した弁護士費用の目安も、この日本弁護士連合会の資料を元に作成しています。

 

2-3.退去費用(荷物の処分・原状復旧等)

 

退去費用とは、強制退去後にかかる費用です。これは部屋の大きさにかかわらず、強制退去は執行をするだけで「33〜45万円」程度の費用がかかります。

 

強制執行の執行補助者の日当、解錠が必要な場合には鍵をあけてくれる専門の業者を雇うことになるからです。

 

強制執行の費用は固定ですが、本項では家賃5万円のワンルームマンションで裁判を起こした場合、どのくらいの退去費用がかかるのか一例を紹介します。

 

荷物の処分・原状復旧にかかる費用

区分

内容

金額

解錠作業

部屋の鍵を開ける解錠技術者の依頼費用

30,000~50,000円

強制執行の実費

申立費用、執行補助者日当

30〜40万円

催告日と断行日の合計額

運搬用車両

荷物の運び出しに必要な車両のレンタル費用

30,000~50,000円

残置物保管費用

部屋に残された家財道具や荷物の保管費用

1カ月30,000~50,000円

 

物件の残置物や強制執行で運び出された荷物は一定期間保管された後、競売にかけられますが、競売が行われるまでの期間は、荷物の保管に「1カ月30,000~50,000円」もの費用がかかります。

 

強制退去を進めようとして、いざ「費用が出せない」ということにならないよう注意してください。

 

2-4.費用の一部は賃借人に請求できる

 

ここまでの費用ですが、一部の費用については貸借人に請求することができます。下記に、貸借人に請求できる費用をまとめてみました。

 

◉ 裁判所に納める切手代と印紙代

◉ 解錠費用

◉ 強制執行の実費

◉ 運搬車両の費用

◉ 残置物保管費用

 

裁判所に納める諸経費、強制執行にかかる費用や荷物の運び出し等にかかる費用は、基本的に貸借人に対して請求できます(※ 弁護士費用は除く)。

 

もちろん家賃を滞納している方ということもあり、これらの費用を本人から回収するのは難しいかもしれません。

 

このため、貸借人からの支払いが難しいという場合には、連帯保証人に請求を行う流れとなります。

 

さらに連帯保証人も支払う意思が見られないという場合には、家賃対応の相談を受けている機関や債権回収に強い法律の専門家に相談をしてみてください。

 

3カ月以上支払いが行われない、支払いについての連絡が無いなど相手から支払いの意思が見られない場合には、裁判所も債務不履行と認めてくれる可能性が高くなります。

 

このような債権回収については、個人での回収や交渉が難しいため、法律の専門家に相談をされることをおすすめします。

 

7.強制退去の対応で困ったときの相談先3つ」では、強制退去の対応で困った時に相談できる機関や専門家について解説しています。

 

3.確実に強制退去を実現するために必要な条件

 

強制退去を確実に進めるには、抑えておくべき条件があります。

 

実際、強制退去は「貸借人が気に入らないから実行する」といった思い付きや個人的感情で実行できるものではありません。

 

根拠無く強制退去を進めてしまっては、強制退去を進めた側(大家)が不利になってしまいます。

 

特に最近は、新型コロナウイルスの影響で収入が減った方に配慮し、大家やオーナーの側に「より柔軟な対応をするよう」法務省も注意喚起を行っており大家や不動産オーナーが不利な状況です。

 

このため、以前にも増して強制退去を実現するのは難しく、確実に進めるためには執行に必要な条件を抑え、慎重に手続きを進める必要があるのです。

 

強制退去を行うには、最低でも以下3つの条件を満たす必要があります。

 

1.3カ月以上の家賃の滞納

2.支払いの意思がない

3.信頼関係の喪失

 

それぞれの内容を順に見ていきましょう。

 

3-1.3カ月以上の滞納

 

家賃滞納1カ月、2カ月では裁判所が家賃滞納による債務不履行を認めるケースは少なく3カ月以上の滞納でやっと強制退去を行える可能性は高くなります。

 

なぜハッキリ「強制退去できる」と言い切れないのかというと、民事では債務者の状況を配慮し、強制執行を認めないケースがあるからです。

 

この記事のはじめに「強制退去の流れ」を説明しましたが、下の画像の赤枠で囲った部分、家賃滞納から3カ月目になって、はじめて裁判所が「債務不履行」と認めてくれるラインとなっています。

 

本来であれば、滞納1カ月で「債務不履行」と見なされますし、民法第541条を根拠に債務不履行を主張することで法的に強制退去が実行できます。

 

しかし、現実的には強制退去を進めることが難しくなっています。

 

なぜなら、賃貸契約では大家よりも賃借人の方が「立場が弱い」と見なされるため、弱者である賃借人を守る法律が複数存在しているからです。

 

特に新型コロナウイルスの影響で、仕事や収入に影響がある債務者については「配慮し厳しい取り立てを行わないよう」国が指導も行っており、裁判においても、大家や不動産オーナーの側が不利になる可能性が高くなっています。

 

このため家賃の滞納1カ月程度で強制退去を行うのは難しく、実際には「3カ月以上の滞納」で手続きを進めることになるのです。

 

3-2.支払いの意思がない

 

相手に「支払いの意思がない」ことが証明できれば、強制退去を行える可能性があります。

 

民法では「一定期間の支払いがない」場合を債務者の支払いの意思が無いということと認めています。

 

その法律の根拠となるのが、下記の民法541条であり「相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がない」という部分がこの考えにあたります。

 

民法541条 (催告による解除)

 

当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。

ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約および取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

 

具体的な日数などは書かれていませんが、過去の判例等も参考にすると、社会通念上では「3カ月以上の家賃滞納」で相手に支払いの意思が無いと考えられます。

 

ここでの相手は、貸借人だけでなく連帯保証人も含まれます。

督促を行い、賃借人と連帯保証人のいずれも支払いの意思を示さないという場合であれば、強制退去が行えるのです。

 

3カ月以上の家賃滞納があったとしても督促を行う時点で圧力をかけてしまうと、相手方が「大家から無理な取り立てを受けて精神的に苦痛を被った」と訴えてくる可能性もゼロではありません。

 

このため、次の章で説明しますがトラブルのない方法で、相手との交渉を進める必要があります。

 

「支払いの意思がない」ことが分かった時点でも慌てず、「4.トラブルなく強制退去を進めるためのポイント3つ」で紹介する手順に沿って慎重に手続きを進めてください。

 

3-3.信頼関係の喪失

信頼関係の喪失とは、大家と賃借人の間で信頼関係が崩壊している状態を指します。

 

家賃滞納の場合であれば、正しい流れで督促を行ったものの「支払いの意思がない」と認められた場合、信頼関係破壊の法理によって契約を解除することができるのです。

 

信頼関係破壊の法理とは?

 

一方的な解約について、当事者間の信頼関係が破壊されたにのみ認められる判例の考え方。

賃貸契約などの信頼関係に基づく継続的契約において、当事者間の信頼関係が破壊した程度の状態でなければ「契約を解除できない」といった法律上の理論のこと。

別名を配信行為論とも言います。

 

信頼関係破壊の法理の考え方ですが、1回の不払いでは賃貸借契約の解除を認めることが難しく、以下の要素を総合的に見て、当事者間の信頼関係が破壊されているか判断をします。

 

◉ 滞納の期間

◉ 滞納している金額

◉ 滞納に至った経緯

◉ これまでの交渉状況

 

本章のはじめでも説明した通り、3カ月以上の滞納であれば、賃貸借契約の解除が認められる可能性はあります。

 

しかし、賃借人が「新型コロナウイルス感染症の影響で払えない」という回答をしたような場合には、裁判所が明け渡しを認めない可能性が高くなるので注意が必要です。

 

最終的には事案毎の判断になりますが、コロナ禍が原因で相手側が「信頼関係は破壊されていない」という主張をした場合、強制退去の交渉は難しくなります。

 

4.トラブルなく強制退去を進めるためのポイント3つ

 

ここまで説明した通り、強制退去というのはここ数年の社会的背景も踏まえて、慎重に手続きを進める必要があります。

 

実際、無理な取り立てや強制退去を進めてしまうと、賃借人から「国も配慮するよう指導しているのに大家が悪質な取り立てをしてきた」と大家やオーナー側を訴えることも考えられます。

 

このため賃借人とトラブルを起こさないためには、法律と合わせて社会的背景を考慮する必要があるのです。

 

トラブルなく強制退去を進めるには、下記のポイントを把握して手続きを行ってください。

 

1.必要な書類をすべて集めてから手続を行う

2.実力行使を行わない

3.過去の判例を参考にする

 

それぞれ、どのような点に注意すればよいのか順に解説します。

 

4-1.必要な書類をすべて集めてから手続を行う

 

強制執行の手続きは、必要な書類を全て集めてから行いましょう。

 

本記事のはじめに、強制執行には平均10〜12カ月かかると説明しました。

しかし訴訟の書類がひとつでも欠けてしまうと、裁判を始めるまでに時間がかかってしまいます。

 

強制退去のための裁判(=明け渡し請求訴訟)では、以下の書類が必要です。

 

明け渡し請求訴訟に必要な書類

訴状

裁判所に提出する書類で、原告(申立人)と被告(相手方)の個人情報、請求の趣旨、紛争の要点のほか物件の内容を記入する。

不動産登記謄本

土地、建物、建物(区分所有)の所有者など、不動産登記の情報が記載されている書類のこと。

法務局で取得ができ、オンラインでも請求できる。

固定資産評価額証明書

固定資産税の課税対象となる資産(土地や建物など)の評価額を証明する書類で、不動産が所在する市区町村役所で取得できる。

予納郵便切手

裁判所から相手方に書類を送るための切手で、申し立てを行う裁判所によって、かかる費用は異なる(申し立てを行う裁判所のホームページで確認できる)。

収入印紙

裁判の当初に、裁判所に収入印紙を納付する必要がある。印紙代は固定資産税評価額の2分の1がかかる。

証拠書類

賃借人と交わした建物賃貸借契約書、内容証明郵便(賃貸借契約解除を通知したもの)、配達証明書(賃貸借契約解除を通知した際の証明郵便の配達証明書)等、裁判所に提出する証拠書類のこと。

登記事項証明書(法人のみ)

不動産の所有者や大きさ、構造、担保などが記された証明書のこと。

法務局でもらえるほか、オンラインでの請求も可能。

 

裁判所ホームページ「裁判申立のための必要書類等一覧表(裁判所)」では、裁判にはどのような書類が必要なのか詳しく解説していますし、また実際に裁判を行う各裁判所でも必要な書類について教えてくれます。

 

このように裁判を起こすには、書類をすべて揃えるにも長い時間がかかります。強制執行を行う場合には、書類作成など時間に余裕を持って準備を進めるようにしてください。

 

4-2.実力行使を行わない

 

強制退去で、最もタブーとされるのが「実力行使で追い出す」ことです。

 

大家や不動産オーナーだからという理由で、賃借人の部屋に無断で入った場合には、貸す側が住居侵入罪等に問われます。

 

また、無断で荷物を運び出した場合には、器物損壊罪、無理な取り立てやプレッシャーを与えるような督促の仕方は、脅迫罪や強要罪に問われる可能性があり注意が必要です。

 

実力行使を行った場合に問われる罪名の一覧

罪名 

内容

住居侵入罪(刑法第130条)

正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。

器物損壊罪(刑法261条)

他人の所有物または所有動物を損壊、傷害することを内容とする犯罪。

前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

脅迫罪(刑法第222条)

相手を畏怖させることにより成立する犯罪のこと。

1. 生命、身体、自由、名誉または財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役または30万円以下の罰金に処する。

2. 親族の生命、身体、自由、名誉または財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。

強要罪(刑法第223条)

刑法で規定された個人的法益に対する犯罪。

1. 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。

2. 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。

3. 前2項の罪の未遂は、罰する

 

実際、家賃の滞納で困っている大家やオーナー側が、賃借人から訴えられて、損害賠償請求を受けるケースも増えています。

 

このほか、賃借人が留守の間に勝手に鍵を交換したり、部屋に入れないような工事をすることも違法な追い出しとして処罰されます。

 

このような滞納金を取り立てすることの「違法性」については、貸金業法 第21条第1項(取立て行為の規制)が参考になります。

 

◉ 社会通念に照らし不適当と認められる時間帯に電話をしたり、自宅を訪問する行為

◉ 正当な理由がないのに、債務者等の勤務先その他の居宅以外の場所に電話をかける行為

◉ 債務者の債務の事実や私生活を第三者に債務者等以外の者に明らかにすること。

 

実際に、貸金業法では上のような行為を禁じています。

 

よりシンプルにまとめると、社会通念上、「貸付けの契約に基づく債権の取立てをするに当たって、人を威迫し、又は次に掲げる言動その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはならない」とするのが司法の判断です。

 

このため、大家や不動産オーナーは強制退去における督促や催促の方法について、上記の点に留意する必要があります。

 

4-3.過去の判例を参考にする

 

強制退去で失敗しないためには、家賃の滞納で起こった事件の過去の判例を参考にして役立てましょう。

 

同じような立場で部屋を貸し、家賃の滞納で困っている方がどのような裁判を起こし、どのような判決を受けたのかを知れば、強制退去で間違った交渉や手続きを進めるリスクが回避できます。

 

RETIO判例検索システム(RETIO 不動産取引推進機構)というサイトがあり、不動産の適正取引を推進しているほか、ここでは建物賃貸借に関する紛争の概要と判例、裁判の結果を詳しくまとめた資料が閲覧できます。

 

これから、強制退去で裁判を起こす方は、上のRETIO不動産取引推進機構で、過去にどのような判例や事件があったのか確認しておきましょう。

 

5.強制退去の注意点3つ

 

強制退去では、ここまで紹介した「手続きの流れ」だけでなく、賃借人とのやり取りにも配慮する必要があります。

 

例えば、賃借人が夜逃げをしてしまってはいけませんし、家賃が回収できないまま事件が未解決になってしまっては、大家や不動産オーナーだけが損をしてしまいます。

 

下記のとおり、「強制退去の注意点」は大きく分けて3つあります。

 

1.時効成立する前に強制退去の手続きを始める

2.夜逃げのリスクに注意する

3.訴訟が高額で長期戦になることを覚悟する

 

それぞれ「どのような点に注意すれば良いのか」を詳しく解説します。

 

5-1.時効成立する前に強制退去の手続きを始める

 

家賃の滞納には「時効」があるのをご存じでしょうか。家賃の滞納の時効は「5年」です。

 

もちろん、ここまで長期間待ち続ける方はいないと思いますが、取り立てをしないまま放っておくと、民法169条の「定期給付債権」によって家賃の回収はできなくなってしまいます。

 

定期給付債権の短期消滅時効(民法169条)

 

年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は、五年間行使しないときは、消滅する。

 

上記のとおり定期給付債権は、5年間権利を行使しないと消滅します。

 

たくさんの物件を抱え、家賃の催促をし忘れているという不動産オーナーや大家さんは、時効が切れるタイミングを忘れないようにして、時効が来る前に強制退去の手続きを済ませてください。

 

5-2.夜逃げのリスクに注意する

 

長期間家賃を払わない賃借人は、夜逃げをする可能性があります。

 

実際に国が実施する統計調査では、住民台帳による人数と市町村の居住人数に乖離があり、行方不明や夜逃げなどで消える人が多いことが分かっています。

 

また、世間では夜逃げ専用の引っ越し業者や荷物の運び出し業者も存在しており、貸借人の夜逃げを防ぐことは難しいです。

 

貸借人の夜逃げを防ぐには、普段からこまめにコミュニケーションを取っておくことが重要です。

 

持っているアパートや物件に足を運んで、立ち話でも話す機会があれば安心ですし、それだけでも「大家さんに迷惑をかけてはいけない」という意識が芽生え、家賃滞納のリスクは減少します。

 

また、賃貸借契約時に勤務先、実家などの連絡先、連帯保証人の情報等を入手しておくと良いでしょう。

 

万が一夜逃げが起こっても、賃借人や賃借人の家族等に連絡が取れるようにしておくと、このようなリスクは最小限に抑えられます。

 

5-3.訴訟が高額で長期戦になることを覚悟する

 

裁判(=明け渡し請求訴訟)では、訴訟費用が高額で長期戦になることを覚悟しましょう。

 

第2章「2-1.裁判費用」でも紹介しましたが「強制執行」では、裁判費用だけでなく荷物の運び出し、執行人や弁護士を雇う費用等を含めると、ワンルームマンションでも総額150万円以上の費用がかかります。

 

特に担保金の部分が非常に大きく、物件の3カ月〜6カ月分の費用を裁判所に預けておく必要があります。

 

通常、こちらに非が無ければ勝訴後に担保金は返還されますが、一時的に支払う担保金、そして申し立ての手数料にもプラス64,000円(申し立ての担保金+手数料)が必要です。

 

このように強制執行や裁判をするにも「先立つものはお金」なのです。

 

実際、相手が家賃滞納をしているからといって、気軽に強制執行できる訳ではありません。

 

そして時間にすると10カ月〜12カ月程度、強制執行までに長い時間がかかるというのも頭を悩ませます。

 

このため、強制執行をするには最初に総額150万円以上の費用+自由な時間を用意しておけるかどうかといったところが、強制執行(強制退去)を進めるかどうかの分岐点になるでしょう。

 

ここまで高額な費用や時間をかけるべきなのかは、状況を見ながら損をしないよう、慎重に決断を下す必要があります。

 

次章でも詳しく解説しますが、特に費用の部分は損をしないよう十分注意をしてください。

 

6.知っておきたい強制退去そのものを回避する方法と費用を安く抑える方法

強制退去では、裁判や弁護士への依頼費用、強制執行費用等、総額にすると150万円以上の費用がかかりますが、下記のような方法で強制退去そのものを回避するか、あるいは費用を安く抑えることができます。

1.任意交渉での解決を目指す

2.立ち退き料を払う

3.自分で裁判を起こす

4.弁護士費用を安く抑える

5.費用を相手に請求する

 

6-1.任意交渉での解決を目指す

 

可能であれば、任意交渉で家賃が回収できるよう、または部屋の明け渡しが完了するよう、上手に話を進めて強制退去の回避を目指しましょう。

 

同じ催促の方法でも「おい、いい加減に払ってくれ!」と怒鳴りながら催促するよりも「支払いが滞っているようですので、期日までにお支払いをお願いいたします」と言った方が、相手は払いやすくなりますよね。

 

このように賃借人を無理に刺激せず、払いやすい状況にしてから家賃を回収するのが賢い方法です。

 

以下のような任意交渉を上手に進めるコツを意識しましょう。

 

任意交渉では、何を目的にしているのか先に明確にすると交渉を上手に進められます。

 

家賃の回収なのか、それとも部屋を明け渡して出て行って欲しいのでは、交渉の仕方も変わります。

 

目的別に見た交渉のポイントは、以下の通りです。

 

任意交渉のポイント(目的)

家賃の回収

経済状況を考慮して、支払いを分割にしたり一定の減額をして支払いやすい状況を提案してあげるなどの譲歩を行う。

部屋の明け渡し

滞納家賃の一部を減額したり免除をして退去をお願いする、または立ち退き料を支払って退去してもらう方法を提案する。

 

上の提案にプラスして、法律や不動産の問題の解決に強い専門機関や弁護士に相談しましょう。

 

専門家の意見を取り入れることで、任意交渉のまとまる可能性がより高くなります。

 

なお、ここでの専門機関とは無料で相談を受け付けている、社団法人全国賃貸住宅経営協会等の機関や、ハトのマークでおなじみの都道府県宅建協会不動産無料相談(全宅連)等の機関を指しています。

 

また「7.強制退去の対応で困ったときの相談先3つ」で紹介していますが、弁護士の多くが初回の相談を無料としており、お金をかけずに今抱えている家賃滞納や強制退去の問題が相談できます。

 

このような方法で話がまとまれば、弁護士費用も強制執行費用もかかりません。

 

つまり、この段階で交渉が成立すれば、お金をかけずに話し合いだけで問題が解決するという訳です。

 

なお、部屋の明け渡しの項目にある「立ち退き料を払う」方法については、次項で詳しく解説します。

 

6-2.立ち退き料を払う

強制退去の費用を考えると、相手に立ち退き料を払う方が安く済むことがあります。

 

立ち退き料に法律的な義務はありませんが、相場は家賃の6カ月分〜1年程度とされています。


例えば、家賃5万円のアパートであれば立ち退き料が「約30万円〜60万円」になります。

 

この場合、裁判を起こしたり強制執行をするよりも場合によっては、立ち退き料を払う方が安く済むケースがあるのです。

 

立ち退き料を支払うかどうか決断のポイントは、下の図の通り「立ち退き料が強制退去より安くなるかどうか」で決まります。

 

強制退去の費用が150万円もかかるというのであれば、安い立ち退き料を払って、穏便に済ませたいという大家さんも多いのではないでしょうか。

 

もちろん、滞納の期間が長かったり家賃が高くなれば、裁判の方が安いということもあるのでよく検討する必要があります。

 

「現時点での滞納の費用」と「立ち退き料の相場」を比較し、大家や不動産オーナーが損しない方法を選択してください。

 

6-3.自分で裁判を起こす

 

明け渡し請求訴訟は、弁護士に頼まず自分で裁判を起こすことは可能です。

 

実際、自分で賃貸契約に関する法律や手続きの流れを調べ、自ら訴訟を起こして勝訴した大家や不動産オーナーも存在しますし、このような方法は通称「セルフ訴訟」と呼ばれています。

 

ただ、相手方に弁護士や法律の専門家が付くと不利になりますし、実際の手続は法律に詳しくなければ難しいです。

 

特に悪質な貸借人に対する対応や賃借人との交渉が難しいような事件では、自力で裁判を起こす方は少数派です。

 

このため、弁護士費用で迷われている場合には、無料の弁護士相談等を利用したり、先の立ち退き料を払うという方法も考慮しながら、ベストな方法を探るのが賢い方法と言えます。

 

6-4.弁護士費用を安く抑える

 

弁護士費用を安くするには、いくつかの弁護士事務所で話を聞き、相見積もりのような形で弁護士を比較することです。

 

強制退去に関わる弁護費用は、弁護士や弁護士事務所によって依頼する費用に差があります。

古くから事務所を開設している弁護士や老舗の弁護士事務所については、目安となる費用はそれ程大きく変わりません。

 

しかし、弁護士になりたての方や事務所を開設したばかりの若い弁護士については、ベテランよりも安い金額で引き受けるケースがあり、この場合は弁護士に差が出ます。

 

もちろん、弁護士費用は安ければ良いという訳ではありません。

 

若い弁護士や実績の浅い弁護士に依頼した場合、不動産のトラブルの解決に慣れていないため、勝訴できる可能性が低くなることも考えられます。

 

また、不動産の問題や債権回収以外のジャンル(例:離婚問題、債務整理等)を売りにした弁護士に依頼するのも正しい選択とは言えません。

 

このため弁護士に依頼する際には、

 

◉ 弁護士として実績がある

◉ 他の弁護士事務所と比べても費用は妥当

◉ 債務回収や不動産問題に強い

 

上記の点に留意した上で弁護士を絞り込み、相見積もりで比較する必要があるのです。

 

6-5.費用を相手に請求する

 

裁判や強制執行の費用は、諦めずに相手に請求しましょう。

 

これは民法第42条にある「強制執行の費用で必要なものは、債務者の負担とする」と定められており、相手に請求することが認められています。

 

手続きの方法は、裁判を申請した際に作成した「請求債権目録」に、強制執行で用いた費用を掲載すると請求できます。

 

費用が上手く回収できれば、

 

◉ 裁判所に納める切手代と印紙代

◉ 強制執行申し立ての費用

◉ 強制執行の実費

 

これらの費用を回収できるので、金銭的負担は軽くなります。

 

もちろん、家賃を滞納している人なので、賃借人本人が払ってくれるかどうかは分かりませんが、場合によっては連帯保証人や賃借人の家族が払ってくれるケースもあり、諦める必要はありません。

 

なお、このような交渉や費用の請求が難しい場合は、次章で紹介する強制退去の対応で困ったときの機関や専門家に相談されることをおすすめします。

 

7.強制退去の対応で困ったときの相談先3つ

 

賃貸契約について、賃借人との間に問題を抱えている時には、ひとりで解決する必要はありません。

無料で相談できる機関や、専門家に相談されることをおすすめします。

 

なぜなら、強制退去の対応で困ったときには、下記のように相談できる機関や専門家があるからです。

 

◉ 社団法人全国賃貸住宅経営協会

◉ 都道府県宅建協会不動産無料相談(全宅連)

◉ 債権回収の得意な弁護士

 

それぞれ、どのような機関や団体なのかを紹介します。

 

7-1.社団法人全国賃貸住宅経営協会

 

社団法人全国賃貸住宅経営協会では、賃貸住宅に関する悩み相談を無料(0120-37-5584)で受け付けています。

 

社団法人全国賃貸住宅経営協会がおすすめの方は、次の通りです。

 

 

同協会が良いのは、誰が電話をしても無料で相談に応じてくれる点です。

 

コールセンターに法律家の専門家は在籍していませんが、「よくある賃貸住宅に関するトラブル」について適切なアドバイスを与えてくれます。

 

このため、どの専門機関や専門家に相談すれば良いのかアドバイスが欲しい、気軽に相談したいといった場合に活用できます。

 

なお、社団法人全国賃貸住宅経営協会では、国土交通省が作成した参考資料等も社団法人全国賃貸住宅経営協会のホームページで無料配布しています。

 

7-2.都道府県宅建協会不動産無料相談(全宅連)

 

都道府県宅建協会(全宅連)では、同協会に加盟している物件の大家・賃借人に対して、不動産に関する各種無料相談を行なっています。

 

同協会加盟の物件でなければ利用できませんが、加盟する物件の数は多い(不動産業者の約80%が会員となっている国内最大の組織)です。

 

何より無料で利用できるのは大きなメリットです。

 

都道府県宅建協会不動産無料相談(全宅連)がおすすめできる方は、次の通りです。

 

電話のほか、全国にある協会の施設に来所相談することもできるので便利です。

 

同協会のロゴマークは、赤と緑の「ハトマーク」が目印です。

 

最寄りの事務所は、都道府県宅建協会不動産無料相談(全宅連)サイトから検索できます。

該当する物件を管理している方はぜひ利用してみてください。

 

7-3.債権回収の得意な弁護士

 

強制退去の問題解決については、債務回収の得意な弁護士を探すのが一番です。

 

また弁護士事務所の多くが、初回の相談料を無料としており今抱えている問題を気軽に相談することができます。

 

弁護士への依頼がおすすめの方は、次のとおりです。

 

 

弁護士にもそれぞれ得意分野があるので、不動産屋債務回収と関係のない弁護士を選んでしまっては、スムーズに強制退去の手続ができない可能性もあります。

 

このため、家賃滞納や賃借人とのトラブルについては、債務回収に強い弁護士や法律の専門家への相談をされることをおすすめします。

 

弁護士の探し方ですが、弁護士の見つけ方(日本弁護士連合会)のホームページで「弁護士の見つけ方」が紹介されているので、自分にあった弁護士や法律の専門家を探してみてください。

 

多くの弁護士が初回無料としているので気軽に相談できます。

 

8.強制退去時の業者選びはみんなの遺品整理へご相談ください

 

ここまでの章で、強制退去の流れや執行や交渉のポイントについて一通り解説をしましたが、注意したいのが強制執行時の「業者選び」です。

 

意外と忘れがちなのですが、強制執行では自分で荷物を運び出す業者を選んで、裁判所に報告しなければいけません。

 

また、裁判所に申告する業者なので、どこでも良いという訳では無く信用できる業者を厳選して選ぶ必要があります。

 

例えば、強制執行で運び出す荷物のうち、財産になりそうなものは裁判所の競売に出して財産を差し押さえる必要があり、財産か廃棄可能なものかどうかを区分して一定期間(1カ月程度)倉庫などに保管する必要があります。

 

こうした作業は、普通の荷物の運び出し業者では対応できません。

このため強制退去では、下記の作業ができる業者を中心に探さなければいけないのです。

 

◉ 荷物の運び出し

◉ 荷物の選定(差し押さえ資産かゴミかどうか)

◉ 荷物の保管(競売までの期間)

 

裁判所との打ち合わせは、下の画像の赤枠の部分、強制執行の申し立てから約1週間後に行われるので、この時期までに強制執行補助人を選ばなければいけません。

 

強制退去業者にかかる費用は、荷物の量が多くなればその分、運び出しにかかる費用が変わります。

 

第2章「退去費用(荷物の処分・原状復旧等)」でも説明しましたが、同じワンルームマンションでも荷物の運び出しにかかる費用は「3〜5万円」と業者毎に差があります。

 

また荷物の保管費用についても、1カ月あたり「3〜5万円」と業者毎に差があるため、複数の業者で相見積もりを取るのがおすすめの方法です。

 

強制退去では金額面で損をしないよう、強制執行に慣れた業者の中から、妥当な金額で作業をしてくれる業者を選びましょう。

 

なお、退去の業者選びは原則、自分で決めなければなりませんが「自分で探さなければいけない」という点に、プレッシャーや不安を感じる方も多いのではないでしょうか?

 

そんな大家さんや不動産オーナー様の声にお応えして、弊社「みんなの遺品整理」では、荷物の運び出しから荷物の整理や保管まで、強制退去に必要な作業を一手に引き受けてくれる業者を厳選して紹介しています。

 

強制執行時の業者選びでお困りの時には、ぜひ「みんなの遺品整理」へお気軽にご相談ください。


 

信頼できる業者探しは「みんなの遺品整理」にお任せください

「みんなの遺品整理」では、全国812社の業者を厳選して紹介しており、荷物の運搬にかかる費用や荷物の保管費用の目安をはじめ、業者への相見積もりのサポートを行っています。

 

業者探しでお困りの方は、ぜひ弊社のサービスをご活用ください。

 

みんなの遺品整理への相談はこちら

 

まとめ

 

この記事は、強制退去の正しい流れについて解説しました。

 

強制退去には正しい順序があり、実力行使で進めてしまうと、大家や不動産オーナーの側が不利になるので慎重に進める必要がありました。

 

強制退去の流れは、下記の6つのステップとなります。

 

1. 書面や電話で通知を行う

2. 連帯保証人への連絡
3. 督促状を内容証明郵便で出す
4. 賃貸契約解除
5. 明け渡し請求訴訟

6. 強制執行

 

強制執行の流れは、下記の4つのステップとなります。

1.申し立て

2.打ち合わせ

3.催告期日(催行日)

4.強制執行(断行日)

 

実際に強制退去を進めるとなると、裁判所の費用、荷物の運び出し等も含めて150万円以上の費用がかかります。

 

このため、家賃の滞納分と比較して強制退去の費用が見合うかどうかを考えて、場合によっては立ち退き料を払って問題を解決するという方法もあります。

 

賃借人との任意交渉が難しいという場合には、弁護士費用等にあまり費用をかけず、無料で相談できる機関や無料の弁護士相談を利用して、問題解決の方法を決めましょう。

 

また強制退去時の荷物の運び出し業者については、複数の業者から相見積もりを取り、信頼できる業者を選ぶようにしてください。


 

【監修者:一般社団法人遺品整理士認定協会】

遺品整理業界の健全化を目的に2011年設立。

遺品整理士養成講座を運営し、認定試験・セミナー・現場研修などを実施している。

法令順守をしている30,000名を超える会員、1,000社を超える法人会員が加盟。法規制を守り、遺品整理業務を真摯に行っている企業の優良認定、消費者保護のための遺品整理サービスガイドラインの制定もおこなっている。

 

【執筆者:みんなの遺品整理事務局】

東証プライム市場上場の株式会社LIFULLのグループ会社である株式会社LIFULL senior(ライフルシニア)が運営しています。2017年より業界最大級の遺品整理・実家の片付け業者の比較サイト「みんなの遺品整理」を運営し、全国で累計件数30,000人以上の皆様からご相談・ご依頼をいただいております。

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